「確率から言ったら、右手だよ」。０９年以降のドラフトで競合した３１人のうち、当たりくじを引いたのは左手７人に対し、右手は２４人に上る。的中率としても、右が圧倒的に高いという。９２年には４球団が競合した松井秀喜の当たりくじを長嶋監督が右手で引き当てた。清宮の能力にほれ込んでいる由伸監督は、師と仰ぐミスターと同じ“黄金の右”で四半世紀前の再現を狙う。
　世代交代を図る巨人にとって、実力と人気を兼ね備えた長距離砲は競合のリスクがあっても欲しい人材。これまでのくじ運は「今まで当たってないなぁ」とイマイチなようだが、「そんなところで運を使いたくない」と大一番で的中くじを引くために運をため込んでいる―と極めて前向きに捉えた。
　ドラフト当日は「独身時代から自宅にある」という神棚にいつも通り手を合わせ、ドラフト会場に向かう予定。さらに、慶大出身の由伸監督から仰天プランも飛び出した。「西北から会場に入るとか…ね」。♪都の西北〜は、言わずと知れた早大の校歌。系属高の早実に通う清宮を引き当てるため、早大の校歌にあやかって、西北方面から会場の「グランドプリンスホテル新高輪」入りする珍案も口にした。

　史上最多の高校通算１１１発を放ったスラッガーに対しては、かねて「左方向にも飛距離が出るし、飛ばすコツを持っているよね」と素質を絶賛。プロ入りを決断する前には「六大学で僕の記録（東京六大学リーグ史上最多の２３本塁打）を抜けるか見てみたい気もする」とも話すなど、折に触れてあふれるほどの期待感を口にしてきた。ドラフトまで、あと２日。熱意と愛情を右手に込め、由伸監督が抽選箱の前に立つ。
　◆近年の巨人のドラフト抽選　０６年愛工大名電高・堂上直倫で３球団競合。原監督がくじを外した。原監督は０７年の抽選も外して迎えた０８年。ソフトバンクと競合した東海大相模高・大田泰示の抽選では、それまでの右手から左手に変えてくじを引き、見事に引き当てた。その後、球団としては１１年から１位指名のくじ引きは３連敗（外れ１位を除く）している。

　秋季練習第4クール2日目｡室内練習場で練習を見守った高橋監督｡あす26日のドラフト会議に向けて､ネクタイを新調したそうだ｡店員さんに｢テレビ映りのいいネクタイ｣という見立てをお願い｡監督いわく｢一色ではない｡表現しづらい色｣｡2度目の参加となるドラフト会議で｢流れはだいたいわかっている｣という監督の胸元にも注目だ｡

　験担ぎ合戦を制し、何が何でも巨人が当てる！　２６日午後５時から都内のホテルで開かれる「プロ野球ドラフト会議　ｓｕｐｐｏｒｔｅｄ　ｂｙ　リポビタンＤ」で、早実（東京）の清宮幸太郎内野手（１８）が６球団から１位指名されることが確実となった。初のくじ引き役を引き受けた巨人の高橋由伸監督（４２）は、ドラフト用の“勝負ネクタイ”を購入。初参加だった昨年はなかった行動で、交渉権獲得への意欲をうかがわせた。
　運命の糸を引き寄せようと、由伸監督が動いた。１位競合が確実な清宮の抽選に向けて“勝負ネクタイ”を購入したことを明かした。「していくネクタイは決めたよ。昨日（２４日）、ドラフト用に買いに行ったんだ」。ドラフト初参加の昨年はくじ引きを堤前ＧＭに託し、ネクタイも「家にあるやつで行った」という。クールな指揮官の、１年前と異なる行動の数々に清宮獲得への熱意がにじみ出た。

　ドラフト数週間前から、「右手と左手、どっちの確率が高いか知りたい」と近年のデータを調査。入念な分析を経て、確率、的中率の高い右手で引くことを決めた。昨年は長期にわたって視察、調査を続けたスカウト、フロントを尊重し、くじ引き役を堤前ＧＭに委ねたが、今回は依頼を快諾。「魅力はズバ抜けている」と評する清宮の存在があるからこその決意と言える。
　新ネクタイで臨む初の大役。指揮官にとって「新」は特別な文字でもある。就任１年目のスローガンは「一新」。今季は「新しいチームを作りたい。その思いは変わらない」と「新化」に決めた。史上最多の高校通算１１１発を放ったスター候補生は、まさに新しい巨人を作る大きな力となる。
　９２年、長嶋監督が４球団競合の松井秀喜を引き当てたシーンは、今でも多くのファンの記憶に残る。“勝負ネクタイ”の色や柄は明かさなかったが、由伸監督から店員への唯一の注文は「テレビ映えのいいネクタイをお願いします」だったという。当たりくじを引くイメージを膨らませているからこそのリクエスト。ほれた逸材との縁を信じ、念じて、引く。

　◆ロッテ
　井口新監督の指名を受け、２年連続で大役を務める山室球団社長は、昨年は外れ１位で５球団競合の佐々木の交渉権を獲得。今回も右手で１番くじを引く。この日はＺＯＺＯのグラウンドに向かうと「去年と同じく、マリンの神様と満員のファンの方を想像して、力をもらえるように願をかけてきた」とお祈りした。
　◆ヤクルト
　抽選役はＳＤ兼務の小川新監督が務める。過去の抽選は２勝４敗。１０年の早大・斎藤の時は代名詞の水色のハンカチを準備するなど、これまでは験を担ぐタイプだったが、結果が伴わなかった。クジを引く腕も「（壇上の）立つ場所にもよる。（球団から）引けと言われたら、やるしかない」と気合十分だ。

　◆日本ハム
　１３年からくじ引き５連敗中の栗山監督に代わり、木田ＧＭ補佐が初めての大役を務める。栗山監督は「クビになったのでそれがショック」と、苦笑い。自身も１９８６年、巨人から１位指名を受けた木田ＧＭ補佐は「業務命令です。どうしても欲しい選手を取りにいく。その役目」と淡々。くじ運は微妙だと言うが「いろいろやってもしょうがない。先発の時も投げる前から緊張していてもしょうがないから」と、引く手も右か左かもその場で決める。
　◆阪神
　金本監督が、１５年の高山に続く当たりくじを狙う。「言いません」としたが、１８日には「運がいい人と出会って、お参りにいって、当たりくじを引けるようにしたい」と語っており、すでに準備は万全の様子だ。
　◆ソフトバンク
　王会長が清宮との交渉権獲得を、験を担いで工藤監督の“黄金の右手”に託した。一時は工藤監督が早実の先輩でもある王会長に任せる考えも披露していたが、１５年に３球団が競合した高橋、１６年に５球団競合の田中を引き当てた指揮官を指名。「彼の強運にね。実績がものをいう。それが順当な流れ。変に策を講じるといかんからね」と説明した。

　予定通りの右手も、不発だった。と言うより、当たりくじは残っていなかった。由伸監督にとって、初めてのくじ引き参加は２連敗。それでも、３度目の正直で臨んだ１位指名で、中大の即戦力右腕・鍬原（くわはら）の交渉権を得た。「右のパワーピッチャーということで補強ポイントでもある。来てくれるのであれば、最初から期待したい」と目を輝かせた。
　光沢感のある“勝負ネクタイ”はテレビ映えした。早実・清宮を引き当てるため、事前に新調。早大校歌にあやかり、自宅から西北のルートで会場入りした。しかし、７球団の競合に敗れ、九州学院・村上も、３球団重複の末に逃した。清宮について「高校生の中ではトップクラスの打撃と将来性と、そういったものの評価の報告を受けていた。挑戦はしたけどね」と振り返り「将来のプロ野球界を背負っていく選手になるんじゃないかなと思うし、なってほしい」とエールを送った。

　ただ、鍬原とは深い縁を感じる。今季の神宮でのヤクルト戦前に、クラブハウスの小さなモニターで東都大学リーグを観戦し、ひそかにチェックしていた。その中でも光ったのが、この鍬原だった。スカウト陣の推薦と、自身も強く推した上での指名となり、「今は右とか左とか関係なく、力のあるピッチャーが抑えている。力でいける投手だと思っている」と喜んだ。
　チーム内には阿部や亀井ら中大の先輩が多いことも強みになる。指揮官は「不安もあるだろうけど、自分自身に期待する部分もあるだろうから、大きな期待を持って来てくれればいいと思う」と対面を心待ちにしていた。

　｢バットを耳から出す｣のだという｡高橋監督が現役時代に続けていた練習法の一つだ｡バットを遠回りさせず､いかに体の近くを通すか｡理想的なスイング軌道の再現性を高めようと､ティー打撃や素振りなどで独特の感覚を磨いていた｡
　耳の近くからバットを出す意識付けによって､腕が体から離れてバットが遠回りしたり､体が早く開いたりしてしまうなどの打撃のズレを修正できる――｡この自分なりの方法に､たやすくたどりついたわけではない｡
　｢内容があるものを数多くやらないとうまくならない｣と現役時代を振り返る｡キャンプでは1日1000スイングは当たり前｡10年目の春季キャンプでは､3日間で5000スイングに達したこともあった｡
　インパクトの瞬間､手に伝わるボールの感触を大事にした｡厚みのある感触はすなわち､打撃フォームが良い証しだ｡｢良かったときの感触を試合で感じられなくなったとき､それを取り戻すために何をすればいいのか､そういう確認方法を見つけていくことが大事｡この世界で長く結果を残す人たちは､いくつもの感覚､感触を持っている｣｡探求心を持って振り抜いた先に､一流打者の生命線とでも言うべき独特の調整法は生まれ､身に付いていった｡